H271026記載
Twiiter上での短文を、emacs/org-modeでまとめてブログ化しました。発信は早く、まとまったらブログ化へ。そんな使い方の一例です。
1 親告罪・非親告罪とは?
「非親告罪」とは、告訴が訴訟条件とならない犯罪のことです。
処罰を求める意思表示があるのが告訴、ないのが被害届です。
告訴と被害届の違いについては、↓詳しく書いています。
親告罪となれば、告訴がなければ最終的に裁判所では判断がされません(一般向けに簡単に書いています)。
2 著作権法犯罪の非親告罪化のメリット
ネット上でも色々なところで著作権法の非親告罪化が話題になっています。ネガティブ面ばかりが強調されがちですので、あえて、メリット面を書いてみます。
2.1 捜査のタイミングの問題
親告罪というのは、告訴→捜査という流れが基本です。親告罪であれば、まずは告訴ということから捜査のタイミングが失われる場合もあります。
捜査は、タイミングが重要な場合もあります。親告罪は、どうしても捜査が告訴権者の意思が重視されますので、そういうこともあります。
2.2 受動的な捜査
当然ながら親告罪では、告訴権者が訴追を求めようとおもわないと捜査が始まらず捜査機関としては受動的なものとなります。いいか悪いかはともかく、被害届を後で出させようということで捜査が始まることがあります。傷害罪とか。
親告罪では、こんなことは基本できません。
2.3 被害の刑事化の困難さ
たとえば、多数の人により著作権侵害をされているとして。親告罪の今では、いちいちを自分で把握して、そのいちいちについて告訴が必要となります。告訴は被害届とは異なり、より慎重に作成されるということもあります。侵害され放題の場合は、刑事までたどりつくのが大変です。
刑事事件は、民事事件の前提となることもあり、刑事がきちんと処理されていれば民事でも有利ということになります。親告罪であれば、刑事化することが困難なことは間違いがありません。
3 非親告罪となっても
3.1 捜査機関独断捜査の困難性
親告罪が非親告罪化しても、告訴はないが警察独断で進めるぜ!みたいにはなりません。被害者の意向は情状に関わることもちろんですが、罪体においても重要な証拠です。被害者の協力なくして成り立たないのです。
たとえば、傷害罪でも同じようなことがいえます。傷害罪は、非親告罪ですが、被害者の被害届、診断書の取り付け等がないとそもそも刑事事件としては成り立ちません。
被害者がある犯罪では、捜査機関独断捜査は、困難です。
3.2 捜査機関の言い訳を防ぐ
著作権犯罪の非親告罪化は、告訴がないからという捜査機関の言い訳を防ぐ目的もあります。
たとえば、今では一般的に明らかな不当な著作権侵害があり、告発をしても告訴がないから捜査しない!というのが正しい答えとなります。これでいいとするのかそれはいかんやろという話の選択の問題となります。
3.3 著作権者の協力が不可欠・・・創作性
たとえば著作権侵害が非親告罪化したからといって、著作権者の協力を無視して捜査を進めることは実際上かなり困難です。
著作権法違反容疑で刑事事件とする場合でも、著作物の創作性は、警察等の捜査機関で勝手に決めることはできません。
著作権侵害罪の場合は、創作性の有無、程度、時期が罪体及び情状に深く関係します。それらどうやって証拠化していくか?当然被害者に深く聞く必要があります。
3.4 著作権者の協力が不可欠・・・「ニセモノ」概念の根拠づけ
刑事著作権が非親告罪化したとしても、著作権等で問題となる「ニセモノ」概念を根拠づけるために著作権者からの協力が必要です。
最近は、本物の著作権者が本来の商業ルートに乗らずに活動している場合もあり、作品だけで判断できませんし証拠も作れません。
3.5 著作権者の協力が不可欠・・・非登録権利
著作権は非登録権利です。
そのため、非親告罪化しても、実際は著作権者に聞かないとどうしようもないのも現実です。これニセモノじゃね?というのを確認する作業が必要です。概念的には、これも捜査です。親告罪のままであれば、こういうこともできないのが原則となります。
4 ネット上の懸念の影響
ネット上の大きな懸念の1つとして、パロディ作品への影響があります。
しかし、パロディの場合、キャラクターのそのままを原画からコピペすればダメということは当たり前で、そのような手法は普通とられません。
画力等の問題もありますが、それ自体は、ポーズ・カット・コマ割りなどそれ自体独自性があるものも多いといえます。
知財・刑事の大きな特色としては、かなり分かりやすいものでないと刑事手続としては乗りにくいという側面があります。
キャラクターのパロディにおいて、刑事手続に乗るとしたら、どの原画等からの創作物かが問われることになります。また、仮に民事的に厳密に著作権侵害となろうと思われても、二次的著作物の創作性の程度等が大きい、分かりやすい言葉でいえば、原画等を超えた独自性があり、原画等を超えたものと認められる場合などでは、そもそも刑事手続には乗りくくなります。
まったく大丈夫とはいい難いですが、このようなことを考えれば、パロディ作品への影響は、予想の範囲にとどまるものではないかとおもいます。
5 まとめ
著作権犯罪の非親告罪化は、TPPで突然出てきたわけではなく、以前から言われていたことともいえます。知財立国を目指すならば、捜査も積極的にすべき!という観点もあります。
TPPでいうと、外国人・外国企業が、日本の刑事手続をしにくいという側面もありましょう。ですが、捜査である以上、非親告罪となっても五月雨的に貴重な日本の刑事資産を利用してするというわけにもなりません。
こう考えていくと、著作権法犯罪の非親告罪化は、ネット上で大きく言われているよりは、その影響は限定的になるものと考えられます。
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